003:タンポポ
暖かい太陽にむかって、上を向く。 沢山の黄色の花びらが、白い綿毛に変わるまで。 ふわり。 ふわり。 どこまでも飛んでいけるだろう。 また会う日を、夢に見て。 咲也は、道端に咲いているタンポポを見つけてしゃがみこんだ。 「かわいいなぁ〜〜〜」 小さな花を、とても大切なものであるかのように、そうっと触った。 横でそれを見ていた恋人の綾瀬は、ため息を付き、隣にどさっと乱暴に座った。 「あぁ〜〜、花がかわいそうだろ?」 綾瀬のお尻に踏まれたタンポポを、咲也は恨めしそうに見ている。 「俺には、雑草なんてかわいいと思えないからいいの」 花をよけるようにして、咲也は綾瀬の隣に座る。 地元の小さな川の土手で、二人はただ、意味もなく川の流れを見ていた。 優しい風が髪を撫でて、綾瀬の少し長めの髪が、寄り添った咲也の頬に当たる。 「おれは…」 「なんだよ」 言葉を濁す咲也は珍しかった。 甘えたような言葉で、いつもどんな小さなことでもしつこいくらいに話してくるのに、言葉を濁されると、綾瀬は妙に緊張する。 「俺は、やっぱり、かわいいと思うなぁ〜〜」 甘える目つきで咲也は綾瀬に再び訴える。 「あぁ!?まだタンポポの話かよ」 「だって……」 「だってじゃねーだろーが。ほんと、くだらないことにこだわるよな」 呆れたように、でもそんな咲也が嫌いではないらしく、ほんのすこしだけ微笑んだ。 咲也はそんな綾瀬を解っていて、手を重ねる。 「これは、俺の希望なんだよ?」 「タンポポが?」 「そう」 綾瀬の手の上に重ねた咲也の手に力が込められた。 その仕草に、綾瀬はいつもの咲也とは違い、男らしい部分を見せられたようで、赤くなる。 て、離せよ・・・と小さく言ったことは、咲也には無視されているらしい。 「しょうがないから、理由を聞いてやる」 「あははは」 綾瀬の指の間に、咲也の指が入り、なんだかすごくくすぐったい。 上に重ねられた指の熱さ、重みが、咲也の気持ちのようにすら感じる。 「ほんとはね、俺、綾瀬とずっと一緒にいたいんだ」 「……」 それは綾瀬だって、同じ気持ちだった。 せっかく思いが通じ合って、好き同士なのに、咲也が地元から離れた場所の大学に行ってしまい、綾瀬は地元に残り、二人の合える時間は、好きが募るほど少なくなっていた。 それでも週に二日しか会えなくても、二日会えれば、一週間頑張れる。 そういう気持ちは同じで、わがままはお互いにいえなかった。 「でもさ、俺。寂しくて。あっちにいっても、ずっと綾瀬のことばかりで、会いたい、好きだって気持ちばっかりがふくらんで、苦しくて……」 咲也が、テレながらも、真剣に綾瀬に向かってまっすぐに目を見ながら一言一言を告げる。 「だから、その気持ちが届けばいい、ってずっと思ってた。そのために、実は……」 「実は?……なんだよ、気になるな」 「実はさ…、タンポポの綿毛をね、飛ばしたりしてたんだ」 あまりにも突拍子のない咲也の言葉に、綾瀬は言葉を失った。 寂しくて、苦しい。だから綿毛、の意味が解らなかった。 「あぁ?」 「綿毛ってさ、すごく飛ぶんだよ!!知ってる?」 綿毛なんて飛ばして遊んだのは、子供の頃くらいで、そんなことは覚えていない。 「で?」 「それで、その綿毛に、俺の綾瀬が大好きだーー!!っていう気持ちをこめて、飛ばしたら、綾瀬のところまで届くような気がしてるんだ」 (バカだ……こいつは本当にバカだ……) そんなことよりも、伝えたければ、毎日電話でもメールでも言えるのに、そういう変な方法を思いつくのが咲也だった。 「はぁ……」 「だから、タンポポは俺の希望なの」 「そう」 そっけなくそう答えたけれど、でも、ちょっと嬉しいかもと思ってしまう自分が綾瀬は恥ずかしくなった。 いつの間にか、咲也の感覚に、愛情表現に、慣れてきているように感じた。 「綾瀬」 名前を呼ばれて、咲也のほうを向いた瞬間に、唇に軽いキスをされた。 「大好きだよ」 嬉しそうに笑う咲也に、綾瀬はもう何も言えなかった。 大好きだと、俺も同じだと答えたいのに、恥ずかしくて出来ない。 答えられない代わりに、綾瀬は咲也の手を強く握った。 「大好き。早く、ずっと一緒にいれるようになりたいよ」 だから、それまでまってて。 柔らかな、花の匂いとともに、小さな言葉が綾瀬のもとに届いた。 大切な、大好きな人との、春の訪れ。 |
短くなっちゃったけど、実はかなりいずみらしい作品だなと思ったりしました。 やっと、勘が戻ってきたきがする(笑) よし。頑張れるぞ!!この二人、即興で出来たんですが、目標はヘタレ攻め(笑)ヘタレな攻めが大好物です!!それに振り回されるクールな姫(><)萌え しかし、実は名前がもしかしたら、特撮好きな人にはわかるかもしれないなぁ〜とか。一応咲也君は一文字変えてますけど(笑)でも、ものすごく打ち間違えそうになりました!あははは。 気付いても、気付かない振りをしていただければ幸いです。 名前が思いつかなくて、つらいんです(笑) |