001:君の名前

「おい、またそんなの見てんのかよ」
 自室でくつろいでいた僕に、嵐のような男の声が聞こえ、部屋の入ってきた。
 ぎろっと一睨みしてやろうと振り向いた瞬間に、僕は動けなくなった。
「光…お前はいつまでアニメばっかりの生活から抜け出すんだろうな〜〜」
 僕の兄、啓がバカにするように笑う。
 兄とは仲がいい。
 けれど、僕のアニメ好きには反対らしく、僕がこっそり部屋で見ていると、どうしてか嗅ぎ付けて、文句を言いにやってくるのだ。
 いや。
 それだけなら、兄をいつものように追い出してしまえばよかった。
 けれど、今日は……。
「こんにちわ、光君」
 静かに微笑む姿が、女子には多大な人気を得ている、兄の友達、俊也が遊びに来ているなんて。
 実は、大人っぽい落ち着いた優しさが、とても暖かい感じがして、僕は兄の友達の中でも、俊也さんが一番素敵だと思っていた。
 それは別に恋愛感情とかそういうものではなく、ただ、同性としての憧れの対象、という意味でだ。もちろん。
「こんにちは。ゆっくりしていってくださいね」
 あまり見られまいと、テレビをすぐに消し、ぎこちない笑顔で、僕はそう笑った。
「うん。邪魔してごめんね」
「あ〜、いいのいいの。こいつなんて暇さえあれば、テレビばっかりなんだからさ」
 ゲラゲラっと大声を上げて笑った後、二人は兄の部屋へと消えていった。
 あ〜〜もう、一体なんなんだよ。
 いちいち僕の部屋なんて覗きにこなければいいのに。
 なんだか…すごく恥をかいたような気がする。
 別に、自分の趣味に誇りを持っているけれど、それを俊也さんには見られたくなかったというか……。
 まぁ、見られてしまったんだし、しょうがないか。
「続き…みよ」
 すっきりしない気分のまま、僕は消したテレビを再びつけて静かに見ていた。


 コンコン・・・
「なんだよ、うるさいなぁ」
 てっきり兄だと思って、がちゃっとドアを開けた僕は、勢い余って、ドアの外に飛び出してしまった。
 ゴンッ!と額が、硬いものにぶつかった。
「っって〜〜〜」
「ごめんごめん!!大丈夫だった?」
 その声は兄のものではなく、俊也さんだった。
「ど…どうしたんですか?」
 いきなり僕の部屋にくるなんて、何の用事だろう。
 今まで何度も家には遊びに来てたけれど、部屋に来るなんてことは一度もなかったのに。
 あまりに驚いてしまって、僕はぽかーんと口をあけたまま、俊也さんの顔を見つめていた。
「あ〜〜〜。なんかさ、啓が、ちょっと外に出てくるっていって、光君の部屋にでもいってくれば?って言われて、来てみちゃったんだけど、…邪魔かな?」
 申し訳なさそうに、俊也さんは苦笑いをした。
「あ・・でも、僕の部屋、何もないですけど、・・・暇つぶしになるかな…」
「じゃあ、ちょっと話してもいい?」
 話し相手がいないと、時間が長く感じるんだ、と俊也さんが部屋に来ることになってしまった。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 正直、まともに話したことなんてない。
 いきなり、兄の友達と、いくらあこがれている人だとはいえ、話なんてできるだろうか。
 不安に思うけれども、まぁ、仕方ない…
 俊也さんは、テレビの前のソファーで、僕の隣に腰をかけた。
「さっき、アニメ見てたね。そういうの好きなんだ?」
「あーはい。バカにされてますけどね」
 あんまり、持ち出してほしくない話題だなぁ…
 この人が僕のことを目の前でバカにするとは思えないけれど、なんだかソファーと同様、僕の心も窮屈な気がした。
「子供っぽいですよね」
 苦笑して見せると、意外と「俺も結構見てるんだよ」なんて答えが返ってきて、僕はソファーからひっくり返りそうになった。
 いや。確かに好きな人はいるだろう。
 でも、俊也さんがアニメを見る人だったなんて、考えもしなかった。
 てっきり、大人向けの本とか、ファッション雑誌とか、勉強とか、そういうのに興味があって当たり前だと思ってた。
「これもさ、さっき光君が見てて、『あ!どうなったんだ』て、実は気になってた」
 そんな話を聞かされたら、話さずにはいられないじゃないか!!
 僕は張り切って、テレビを見ながら解説をしてしまった。
 でも、本当に言ってることは嘘じゃないようで、微妙に細かいストーリーとかを俊也さんは知っていて、何を話せばいいんだろうと考えていた自分は、どこかに飛んでいっていた。
「俺さ、この役者さんがすきなんだよね」
「あー、僕も結構すきですよ!上手なんですよね。息とか、間の取り方とか」
「うん。どんな役やってたか知ってる?この人が出てると、俺、ちょっと見ちゃうんだ」
 落ち着いた雰囲気の声をしている役者さんがすきなんだな。
 この人の役といえば、エルダ、アキラ・・・・あとなんだっけ。
 でも、ものすごい数をこなしている人だから、いちいち覚えてないな…
「僕は、『砂の王宮』のエルダの役が、この人は一番好きですね」
 優しくて、暖かくて、それでいて強かった。
 そういえば、ちょっと俊也さんに似てるかも。
「俺はね、一番は決まってるんだ」
「え?なんですか?」
「……それは内緒だよ。次に遊びに来たときまで考えておいて。きっと、君も知っている名前だよ」
 知ってる名前?
 なんだろう・・・・
 思い出せないな。
「とても、大好きな名前なんだ」
 じゃあ、啓が帰ってきたみたいだから、行くね、と俊也さんは笑って部屋を出て行った。
 なんだか、なぞだけを残して帰ってしまったけど。
 大好きな名前、なんだ。
 解らないまま、僕はただ、楽しかった今日を思い出していた。



 大好きな名前。
 それに気付いたら、君はどうするだろうね。
 気付いても、わからないのかな。
 まぁ、それはそれでもいいけど。まだ時間はあるし。
 
 あの人の役で、一番好きな名前=俺の一番好きな人の名前。

 それは、キミの・・・・・・



 <感想> 
 やっとできました!!!
 なんだか、すごく変な文章になってしまったけれど、第一作目だから許してください。
 うわ〜〜。一人称かけない。
 しかも、最後だけ人称変わってるし(><)
 ひどい・・・・こんなにも書けなくなっていたなんて、自分でショックですよ…
 まぁ、明日からも頑張って、前くらい書けるようには戻したいです(´・ェ・`)